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青木 健
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青木 健(あおき けん)イラストレーター他。 日本初のラーメン専門誌「月刊とらさん」にて漫画を連載中! ラーメンは数ではなく愛がモットー(1週間で29杯が最高)。 ラーメンをテーマにしたTシャツ屋さん【ラ部】を運営中!
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2008年03月08日

孫をたずねて三千里

はるか〜草原を〜じゃなくて、日も暮れかけた西国分寺を、
わたしは歩いていました。
ある若いラーメン店主が絶賛していた店に行くことにしたのです。

いつものように携帯で調べてみると、駅からの順路が書いてない。
「だったら駅から近いに違いない」と、鵜呑みにしたのが間違いの始まり。
常備している地図で番地を確認し、線路沿いから行こうと歩き出しました。

しかし少し歩いただけで、いきなり店が途切れてしまった。
「案外、開けてない街なのか…?」
線路に沿って住宅街を少し進むと、行き止まり。
「んもーなんだよ〜…かなり戻らなきゃ…」
これを何度か繰り返し、目的地へ向けて進みます。
地図の縮尺と、歩いている実感から、次第に目的地が
「思ったよりずっと遠い」ということがハッキリわかってきました…。

街灯が極端に少ないので、とても暗い。それに人の姿がありません。
住宅地なのに、十字路に立っても、四方に誰も見えないんです。
いるはずもない。
だって、この場所の一人歩きは相当「怖い」ですよ…。
たまーに女性とすれ違うと、その表情は明らかに痴漢警報発令中。
「それ以上近づいたら、刺し違えてでも自分を守るから」
という鋭い視線がわたしをメッタ刺し。怖いのはむしろコッチです。

やがて、少し大きな通りに出ました。ほっとして景色を眺めてみると、
立ちながらぶ郊外型の量販店。コンビニにも駐車場がある。
「う〜ん、結構イナカなのか…」
目的地は「日吉町3丁目31番地」。だがまだ日吉町にすら入れない。

ちょこちょこ出現する無名のラーメン店が優しい灯りでわたしを誘いますが、
「迷わず行けよ、行けばわかるさ」
レスラーの名言が気弱なわたしの心を後押しします。

基本的にわたしは徒歩は苦になりません。閉店した「ガンジャ」でも、
移転前の「くにがみ屋」でも、町田の「勇次」でも、東久留米の「竹屋」でも、
徒歩上等です。でもそれは「遠いことを予め知っているから」。
どのくらい先なのかが見えずに歩くのは、とても不安。

そんなこんなで、遂に日吉町3丁目の標識を見つけました。
「3丁目13番地」。港町じゃないけど、ひばりちゃんの歌が口をついて出ます。
少し進むと標識は15番地になりました。

わたしがかつて小児喘息だった頃のこと。
父が本郷三丁目の病院に連れて行ってくれたのですが、道に迷いました。
そのときに父が、
「番地っていうのは、皇居を中心にして順番になっているんだよ。
 だから若い番地を探すときは皇居の方角へ歩けばいいんだ」
という豆知識を教えてくれました。それで見事、病院も見つかりまして、
実際自分が大人になってからも役立ったので、忘れずにいます。

13、15ときたわけですから、次は17か18か…。

次にあった標識を見ると、

「…14て!!」

でもそこを無視して歩き続けると、番地は少しずつ増えていきました。
いっそこのまま平成の伊能忠敬になろうと覚悟を決めかけたその時です。
同じくらい大きな道と交差していたので、思い切って曲がってみることに。
しかし、数10メートル歩いた場所にあった標識には、

なにも書かれていない!!

そんなトマソン標識が存在しているとは、誰が想像したでしょう。
もはや見えないものの邪念を感じないわけにはいきません。
わたしはラーメン愛の名の下に、悪と立ち向かうことにしました。

やはりこの角を曲がるのは失策だった。戻って直進してみよう。
「3丁目28番地」まできました。もう目標は目と鼻の先(のはず)です。
わたしのラーメン・イマジネーションが作動してきます。
ところがそこから歩き始めて、50メートル以上まったく標識がありません。
イヤな予感がします。

次にあった標識には、

「なぜ2丁目!!!」

…戻ります。さきほどの角を曲がってみるしかありません。
車の列がブオンブオン通り過ぎます。その時、わたしは見つけました。
そこに浮かび上がった電光看板を……。

あっ!

「男はつらいよ」のオープニングと酷似しているために、せっかくの
感動をゴッソリ削がれてしまう「幸福の黄色いハンカチ」のBGMが
頭に鳴り響きました。
頬をとめどなく伝う熱いもので「白河中華そば 孫市」の文字が滲みます。



素晴らしくいいロケーション。
手前の焼き鳥屋の煙までも、映画のセットみたいに見えます。



これはちょっとそそられますね。
木の階段を上がって引き戸を開け、店内をパっと見る。
4人掛けテーブル席がいくつかと、カウンター。

(一人だし、カウンターかな…)

と目を走らせる。カウンターは半分くらいしか埋まっていないが、
全員、自分の横の椅子に荷物を置いていて、座れない…。
さてどうしたもんかと思ったところ、
マスク姿のご主人は、わたしの躊躇を見て取り、
「そちらのテーブル席どうぞ〜」と声をかけてくれた。
(店に入ってからここまで、5秒)



中華そば600円を。
いや〜、美味しいね。さすが「とら系」(まさに孫にあたるわけですな)。
食べながらふっと気付くと、ガクっと量が減ってますもんね。
そういう食事になっちゃいます。考える間もなく、食べ進んでしまう。

たった2度しか曲がらずに駅に到着。
こうやって歩けば、そうそう怖い思いも、迷う不安もなかった。
時間にして30分強。
行きはコワイコワイ、帰りはヨイでした。  
Posted by 青木 健 at 00:16Comments(0)TrackBack(0)