2008年07月29日
八熱地獄:伍
ラーメン八熱地獄巡り:其の伍
大叫喚地獄! 〜カレーの戦慄
その店は、ラーメンフリークよりもむしろ、
ホットマニアにとっての城。
辛さの殿堂。刺激の聖域。激辛キングダム。激辛中毒患者の駆け込み寺である。
5杯めにしてようやくカレーのお出ましだ。
ある意味、今回が最も高いハードルだと思っている。
店に向かう道、緊張で武者震いしていた。
女性にはわからない表現で申し訳ないが、下半身が
「ジェットコースターに乗る前の状態」だ。
わたしは「買って来たエロ本をすぐに見ないでもったいつける中学生」
のように、より近い千石駅ではなく、JR巣鴨駅から歩いて向かった。
この緊張を少しでも持続して味わいたい。
なんでも近道、早道の行動派ってのは、情緒がなくていけません。
やがて見えてくる立て看板。
「大沢食堂」
黄色いドアを押すと、ウルトラセブンの電子音で出迎えられる。
酒盛りをする人たちや1人黙々と食べる客で、半分くらいの入り。
カウンターにいる客の隙間に入ろうかと思ったが、
優しい店員さんが、「お待ちくださいね〜」とテーブルを片付けてくれた。
入口から一番近い角のテーブル席。よしっ。ここが今回のリングですね。
グラスを運んで来たお兄さんに、意を決してオーダーする。
「カレーラーメンの…………極辛を」
ピクッ。お兄さんの表情が変わった。
「…かなり辛いですが、初めてですか?」
顔がシリアスである。リアルである。本気と書いてマジである。
「ギャグだったらやめてくださいよ…」そう書いてある。
「大辛までは食べたことあるんですが…」と言ってみる。
(ほんとは中辛までなのだが、止められてはかなわないので嘘をつく)
「だいぶ、違いますよ」
「大辛よりも、ですか?」
「はい」即答。
そ、そうですか…………でも「大丈夫です!」
そしてわたしは、水をチビチビしつつ、悪魔降臨を待ちます。

カレーラーメン極辛 850円
見た目は相変わらずさりげない。ラーメンにカレーをかけただけ。
「オラオラ〜、死ぬほど辛いんやでえ〜」っていう威しがない。
でもカレーの色が静かに不気味です。
「カレーの匂いなんだけど、カレーの匂いじゃない」し。
ふわっと漂うその香りから、容易に想像がつくポテンシャル。
深呼吸して(C)満里奈)から、意を決して、
ずずっ。ずずー。
ドーン! 舌から脳へ届くのが早い。
たった2口で、もう発汗していた。
…これは辛い。辛いなんて言葉では甘過ぎるほど辛い。
これまでとは、辛さの“厚み”が違うのだ。
唐辛子メインの直線的な辛さではなく、
辛味、甘味、塩味、そして苦味さえ伴って、
触れる肌すべてに波状攻撃を仕掛けてくる。
辛さを感じ取る部位すべてに爆撃をしまくる。
きたわ……わたしは箸を握り直した。
しかしその味たるや、上にかけられたルゥが醤油スープと混ざり合って、
かなりウマい!
大丈夫、これならいけるぞ。そう思った。
調子に乗って、カレーだけをすくって口に運ぶ。ウマい。
とろけて小さくなった野菜に、ほろほろの角切り肉。
中細麺はミチっとして、咀嚼するとどこかご飯的。
口の中はすでに火砕流が渦巻いていたが、これは美味しい。
時々来る寒気をも楽しみながら、わたしは麺を啜り続けた…。
…あれっ、おかしいな?
さっきみたいに啜れないよ……なんでだろう、おっかしいな…。
そうかッ、辛過ぎるからだね…!
ふと気付くと、もう当初の余裕は消え失せていた。
唇といわず舌といわず、口中の神経がビローンと剥き出しになった感覚。
麺を啜ると、ドライヤーの熱風を直で口に当ててるかのように激アツ。
麺を咀嚼すれば、
「熱い湯に我慢して浸かっているとき、お湯を揺らされる」ように痛い。
首筋を、顳かみを、背中を汗が流れ落ちてゆく。
鼻水も出て来た。ちーん。
あ、あれ、なんだろう。汗に混じって……涙……が…。
悲しくも嬉しくもないのに、涙がほろり。
刺激ですか? それともこれが世に聞く「辛さ涙」ですか?
常軌を逸する激辛であり、かなりスパイシーであり、どうしても咽せる。
しかし食べている最中に咽せると大変なことになる。
ずずーっ…ガホッ……うっ!!
気管に入った! うう…咳き込みたい。激しく咳き込みたい。
ダメだ、極辛に挑んだ男として、それは恥だ!
思わず水をゴクゴク飲んで天を見上げ、目を瞑って耐えた。
ふー、ふー、ふー。
クール(じゃないけど)ダウン。
大沢食堂がこれまでの店と違うのは、恐ろしく辛いカレーが、
時間とともに醤油スープに馴染んでいくことである。
薄まっていくように思われるかもしれないが、そうではない。
むしろ、逃げ場がなくなっていく。
つまり「食べ終わるまで辛くなり続ける」のだ。
もちろん、体感的にも辛さが積み上げられていくので、
ダブルで辛さが増す。
最後はスパイスの粉感がしっかりわかるほど濃厚なペーストに。
完食まであと少しというところで、ようやくに旨辛分離が始まったが、
まだまだ辛さは増していく。
身の危険を感じた体内では、アドレナリン出っ放し。
まさにアドレナリンの特性「闘争か逃走か」の狭間で揺れ動く。
ギリギリのところで闘争するわたし。

そして汁完。
よく見てください。掻き取った跡があるでしょ?
アドレナリン効用のひとつに、痛覚の麻痺が上げられる。
きっとそこまで行っていたのに違いありません。
汗まみれでドンブリを置くと、目の前には大きなモノクロの写真パネル。
諸手を上げてトロフィーを捧げ持つ、キックボクサー時代の店主。
水を1杯注いで飲んで、会計。さきほどのお兄さんもニッコリ。
マジ、キック強かったっス、押忍。
帰り道、唇がビローンと腫れ上がったかのような感覚。
きんどーちゃんみたいになってるような気がする。
すれ違う人すべてが、それを見て笑っているように思える。
見ないで! ああ、見ないで!!
自意識過剰な男は、ひとり駅への道を早足で急ぐのだった。
…しかし、こと「激辛カレー」というジャンルにおいては、
この「大沢食堂」も下位に甘んじるという。
これを凌駕するものというのは、おそらく味とか健康とかを度外視した
危険物セーフティーレベル4だと思いますので、
わたしは一生知らないままでいたいと思います。
大叫喚地獄! 〜カレーの戦慄
その店は、ラーメンフリークよりもむしろ、
ホットマニアにとっての城。
辛さの殿堂。刺激の聖域。激辛キングダム。激辛中毒患者の駆け込み寺である。
5杯めにしてようやくカレーのお出ましだ。
ある意味、今回が最も高いハードルだと思っている。
店に向かう道、緊張で武者震いしていた。
女性にはわからない表現で申し訳ないが、下半身が
「ジェットコースターに乗る前の状態」だ。
わたしは「買って来たエロ本をすぐに見ないでもったいつける中学生」
のように、より近い千石駅ではなく、JR巣鴨駅から歩いて向かった。
この緊張を少しでも持続して味わいたい。
なんでも近道、早道の行動派ってのは、情緒がなくていけません。
やがて見えてくる立て看板。
「大沢食堂」
黄色いドアを押すと、ウルトラセブンの電子音で出迎えられる。
酒盛りをする人たちや1人黙々と食べる客で、半分くらいの入り。
カウンターにいる客の隙間に入ろうかと思ったが、
優しい店員さんが、「お待ちくださいね〜」とテーブルを片付けてくれた。
入口から一番近い角のテーブル席。よしっ。ここが今回のリングですね。
グラスを運んで来たお兄さんに、意を決してオーダーする。
「カレーラーメンの…………極辛を」
ピクッ。お兄さんの表情が変わった。
「…かなり辛いですが、初めてですか?」
顔がシリアスである。リアルである。本気と書いてマジである。
「ギャグだったらやめてくださいよ…」そう書いてある。
「大辛までは食べたことあるんですが…」と言ってみる。
(ほんとは中辛までなのだが、止められてはかなわないので嘘をつく)
「だいぶ、違いますよ」
「大辛よりも、ですか?」
「はい」即答。
そ、そうですか…………でも「大丈夫です!」
そしてわたしは、水をチビチビしつつ、悪魔降臨を待ちます。

カレーラーメン極辛 850円
見た目は相変わらずさりげない。ラーメンにカレーをかけただけ。
「オラオラ〜、死ぬほど辛いんやでえ〜」っていう威しがない。
でもカレーの色が静かに不気味です。
「カレーの匂いなんだけど、カレーの匂いじゃない」し。
ふわっと漂うその香りから、容易に想像がつくポテンシャル。
深呼吸して(C)満里奈)から、意を決して、
ずずっ。ずずー。
ドーン! 舌から脳へ届くのが早い。
たった2口で、もう発汗していた。
…これは辛い。辛いなんて言葉では甘過ぎるほど辛い。
これまでとは、辛さの“厚み”が違うのだ。
唐辛子メインの直線的な辛さではなく、
辛味、甘味、塩味、そして苦味さえ伴って、
触れる肌すべてに波状攻撃を仕掛けてくる。
辛さを感じ取る部位すべてに爆撃をしまくる。
きたわ……わたしは箸を握り直した。
しかしその味たるや、上にかけられたルゥが醤油スープと混ざり合って、
かなりウマい!
大丈夫、これならいけるぞ。そう思った。
調子に乗って、カレーだけをすくって口に運ぶ。ウマい。
とろけて小さくなった野菜に、ほろほろの角切り肉。
中細麺はミチっとして、咀嚼するとどこかご飯的。
口の中はすでに火砕流が渦巻いていたが、これは美味しい。
時々来る寒気をも楽しみながら、わたしは麺を啜り続けた…。
…あれっ、おかしいな?
さっきみたいに啜れないよ……なんでだろう、おっかしいな…。
そうかッ、辛過ぎるからだね…!
ふと気付くと、もう当初の余裕は消え失せていた。
唇といわず舌といわず、口中の神経がビローンと剥き出しになった感覚。
麺を啜ると、ドライヤーの熱風を直で口に当ててるかのように激アツ。
麺を咀嚼すれば、
「熱い湯に我慢して浸かっているとき、お湯を揺らされる」ように痛い。
首筋を、顳かみを、背中を汗が流れ落ちてゆく。
鼻水も出て来た。ちーん。
あ、あれ、なんだろう。汗に混じって……涙……が…。
悲しくも嬉しくもないのに、涙がほろり。
刺激ですか? それともこれが世に聞く「辛さ涙」ですか?
常軌を逸する激辛であり、かなりスパイシーであり、どうしても咽せる。
しかし食べている最中に咽せると大変なことになる。
ずずーっ…ガホッ……うっ!!
気管に入った! うう…咳き込みたい。激しく咳き込みたい。
ダメだ、極辛に挑んだ男として、それは恥だ!
思わず水をゴクゴク飲んで天を見上げ、目を瞑って耐えた。
ふー、ふー、ふー。
クール(じゃないけど)ダウン。
大沢食堂がこれまでの店と違うのは、恐ろしく辛いカレーが、
時間とともに醤油スープに馴染んでいくことである。
薄まっていくように思われるかもしれないが、そうではない。
むしろ、逃げ場がなくなっていく。
つまり「食べ終わるまで辛くなり続ける」のだ。
もちろん、体感的にも辛さが積み上げられていくので、
ダブルで辛さが増す。
最後はスパイスの粉感がしっかりわかるほど濃厚なペーストに。
完食まであと少しというところで、ようやくに旨辛分離が始まったが、
まだまだ辛さは増していく。
身の危険を感じた体内では、アドレナリン出っ放し。
まさにアドレナリンの特性「闘争か逃走か」の狭間で揺れ動く。
ギリギリのところで闘争するわたし。

そして汁完。
よく見てください。掻き取った跡があるでしょ?
アドレナリン効用のひとつに、痛覚の麻痺が上げられる。
きっとそこまで行っていたのに違いありません。
汗まみれでドンブリを置くと、目の前には大きなモノクロの写真パネル。
諸手を上げてトロフィーを捧げ持つ、キックボクサー時代の店主。
水を1杯注いで飲んで、会計。さきほどのお兄さんもニッコリ。
マジ、キック強かったっス、押忍。
帰り道、唇がビローンと腫れ上がったかのような感覚。
きんどーちゃんみたいになってるような気がする。
すれ違う人すべてが、それを見て笑っているように思える。
見ないで! ああ、見ないで!!
自意識過剰な男は、ひとり駅への道を早足で急ぐのだった。
…しかし、こと「激辛カレー」というジャンルにおいては、
この「大沢食堂」も下位に甘んじるという。
これを凌駕するものというのは、おそらく味とか健康とかを度外視した
危険物セーフティーレベル4だと思いますので、
わたしは一生知らないままでいたいと思います。
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この記事へのコメント
おわぁ。
よく食べ切りましたねぇ。
私は同行者の大辛を一口もらっただけで死にそうになりましたし。
ちなみにその同行者、あろう事か最初に天地返しなどしてしまい、
逃げ場が無くなって、KO寸前でした。(^^;
よく食べ切りましたねぇ。
私は同行者の大辛を一口もらっただけで死にそうになりましたし。
ちなみにその同行者、あろう事か最初に天地返しなどしてしまい、
逃げ場が無くなって、KO寸前でした。(^^;
Posted by koon at 2008年07月30日 12:12
●koonさん
やー、店主がキックボクサーの選手だったからというわけではないですが、
もうスポーツというか、格闘でしたね。KOという表現がピッタリ!
さ、最初に天地返し!!
ああ〜それは大変だったでしょう〜。
同行者さんの苦悶が目に見えるようです……(T∇T)
やー、店主がキックボクサーの選手だったからというわけではないですが、
もうスポーツというか、格闘でしたね。KOという表現がピッタリ!
さ、最初に天地返し!!
ああ〜それは大変だったでしょう〜。
同行者さんの苦悶が目に見えるようです……(T∇T)
Posted by 青木 健 at 2008年07月30日 15:11

